ロボットは東大に入れるか
電話や新幹線の開発するときは、技術者たちは「何が実現されるのか」がはっきりとわかっていた。電話は音声を電気信号に変えて電話回線を通じて離れたところにいる相手に伝えるもの。新幹線は時速200kmで走行できる列車を日本で走らせるプロジェクト。
開発には乗り越えねばならない困難はあったが、どうすれば実現できるかイメージできるものでした。
ところがAIの開発は違う。AIの技術者たちは今自分たちが研究していることは「人工知能」という大きなパズルの中でそのピースになるのか、はっきりわかっている人はいない。それが大きなパズルなのかさえよく分かっていない。
しかし、AIという技術は確実に私たちの生活になくてはならないものになってきている。
1997年、IBMのスーパーコンピューター「Deep Blue」が、チェスの世界チャンピオン、ガルリ・カスパロフから勝利を収めた。
2013年、東京大学駒場キャンパスにある新入生用のパソコン600台をつなげたのGPS将棋が、トッププロの一人である三浦弘行八段に勝つ。
2015年、DeepMind社が開発した「AlphaGo」がイ・セドルに勝つ。
はじめの2手で考えると、チェスは先手の白が20通り、後手の黒も20通り。20×20で400通りの組み合わせがある。一局にかかる平均手数は40手。
将棋の場合は、先手が30通り、後手も30通り。30×30で900通り。一局にかかる平均手数は100手。(さらに将棋の場合は相手の駒を取ると再利用できるために複雑さが増す)
囲碁の場合は、先手の黒は19×19の交点の数、361通り、後手の白は、残りの交点の数で360通り。361×360で129,960通り。一局にかかる平均手数は200手。
少々乱暴ですが、チェスの一局の分岐を20通りの20(40手÷2)乗、およそ10の26乗。将棋は900の50乗、およそ5×10の147乗。チェスと将棋の差が10の127乗分くらい違うわけです。少々乱暴ですよ。チェスから将棋まで16年かかったんですけど、16年かけて10の127乗分の計算力を高めたわけです。
囲碁の一局の分岐考えて見ましょう。129,960通りの100乗、およそ。。。2.5×10の511乗。。。カオスです。将棋との差10の364乗をたった2年で乗り越えちゃったんですね。
人間が犬と猫を簡単に見分ける仕組みはいまだに謎。
コンピュータは数学以外のものは何も入っていない。
計算できるとは何か?
アラン・チューリング(1912-1954)
チューリングいわく、計算というのはたった三つの事で成り立っている。
1.有限の知識
2.特定の条件下における特定の手続き
3.同様に繰り返す
例えば、この計算では何をするかというと、
4×7=28をする
九九ですね。九九は「有限の知識」といえる。
4の下に8を書き、繰り上がりの2を覚えておく。
4×4=16をする
繰上りがあったので、2を足して18にする。
5の下に8を書いて繰り上がりの1を覚えておく。
つまり繰り上がりがあるかないかという条件の下で決まった特定の手続きをする。
これをケタがつきるまで「同様に繰り返す」
チューリングの言ったとおりでした。
この3つの操作だけで説明ができたときに、私たちはこれまで一度も1447×654.54を計算したことがなくても、それが計算できると感じる。コンピュータはみんなこの「計算できる」の中にいます。
どんなコンピュータも
1.有限の知識
2.特定の条件下における特定の手続き
3.同様に繰り返す
以外の何も出来ない。
トマス・ホッブス(1558-1679)
『リヴァイアサン』(1651)
人が推理reasonするとき、彼がするのは、諸部分の足し算によって総額を概念し、あるいはひとつの額から他の額を引き算して残額を概念することにほかならない。(『リヴァイアサン』岩波文庫)
何のことがよく分かりませんが、つまり、理性は「計算できる」と考えた。
ガリレオ・ガリレイ(1564-1642)
「宇宙は数学という言葉で書かれている」
近代科学の信念は、「何か法則が感じられるとき、それはきっと数式で表すことができるに違いない」ということ。
一方、
ルネ・デカルト(1596-1650)
機械はけっして言語を使うことは出来ない。(『方法序説』(1637))
IBMの「ワトソン」がアメリカのクイズ番組「ジェパティ!」でチャンピオンに勝つ(2011)
しかし、ワトソンは問題の意味を理解しているわけではない。「意味を理解する」ということは機械=コンピュータにはとてつもなく難しい。
だから、機械は統計を用いて「近似」しようとする。
東ロボ君はリスニングは得意だったが、イラストを理解することができなかった。
イラストが理解できないので、マンガも読むことができない。
機械が人と同じような知性を持っているかどうかは、言葉を使ってコミュニケーションする力があるかどうかだ、と考え、
審判となる人、Aさんが隔てられたところにいるBさんおよび機械と、それぞれ1対1で会話(チャット)します。一定時間会話した後でどちらが人間かをAさんに判断してもらいます。もしうまく判断できなかったら、その機械は充分に知性を持っているといえる。
2014年「ユージーン」というAIが、チューリングテストにパスした。
ところがユージーンの設定がウクライナ在住の13歳の少年としてあり、妙に物知りであったり、突然非常識になったり、英語が理解できなかったり、人の気持ちがわからなかったりしても、ウクライナ在住の13歳であれば、不自然に感じられなかったという事だった。
りんな 天然で勝手な17歳の女子高生。
2016年、マイクロソフト社のTayは悪意のあるユーザーにヒトラー賞賛を教え込まれ、停止された。
文章の内容を理解できないコンピュータの限界だったかもしれない。
アマゾンについて
アマゾンはただ買う、買ったものが届いたでは終わらない。みなさんに次これを買いませんか?と推薦してくる。このサービスを始めたばかりの頃は、かなりトンチンカンなものを推薦してきたが、いまでは的確な営業を仕掛けてくる。機械学習によってドンドン精度が上がってきている。今後、営業職はなくなるのではないか?
アマゾンの「メカニカルタスク」
「機械仕掛けのトルコ人」という変わった名前のサービス。犬と猫の区別する判断の精度は機械学習によってドンドン上がってきている。しかし「かわいい猫はどれですか?」というのはまだコンピューターには答えられない。メカニカルタスクとは、このコンピュータにはできない判断を、人間に安く外注する仕組み。洋服を見て適当なタグ付けをするとか、場所検索して適切な場所が結果として表示されているかを評価するとか。。。この仕掛けは機械の下請けを日本の最低賃金に関係なく、世界の最低賃金のレベルにまで引き下げられる。
アマゾンのカスタマービュー
人間にしかできない仕事に、本のあらすじを書いたり、本の評価をしたりすることがあげられる。アマゾンではこの仕事を安く、どころかただで人間にやらせている。
アマゾンの倉庫について
アマゾンでは在庫をどのように持つべきか、この本がこのように売れいている、このような新商品が出た、先週の売上は〇〇でそのことから今週はこうなるので〇〇の商品を仕入れるべきだ、などはコンピューターで出来ている。
しかし「倉庫の棚から商品をおろして荷車に積む」という作業はまだ人間がしている。なぜか、商品は次々に新しいものが出てきてその都度、ロボットの仕様を更新するコストよりも人間の方が安いから。単にコストの関係で人間は選ばれている。
株のトレードについて
現在、株の取引の7割以上が人工知能でやられている。「アルゴリズム取引」。
電気屋さんで説明を受けて、ネットで購入。「ショールーミング」。
女性はもっと以前から職を奪われている
かつていた、タイピスト、キーパンチャー、電話交換士、経理事務。
今後は男もドンドン仕事を奪われていく。
科学や技術はいつでも人の役に立つように開発されてきたはずである。それはどういうことかというと、労働を機械に置き換える作業だった。水道やガスのインフラも洗濯機や掃除機も、人間の労働をどれだけ置き換えられるかが、社会の役に立つことだった。
しかし人工知能はどうだろう。
ドラえもんがいる世の中になったら、のび太君は何をして暮らしていると思いますか?
ドラえもんに働かせて遊んで暮らしていると思いますか?
でもロボットが働いて得た報酬は、ロボットを開発した会社だけが得ているのではないですか?
今後は、「役に立つ」「便利になる」以外の知恵や仕組みが必要になる!!
科学技術を止めることは出来ない。それならば、科学技術を見極められる、見極めようとする人間が、社会には必要になってくる。
科学技術に対して、なんかすごそうで怖そうで全然わからない、、、というふうに考えるのではなく、専門の人も専門でない人も、一緒に今は科学技術はこういうところまで来ているんだよと問題意識を共有する。そのことによって科学技術の暴走を止めることができるはず。
最後にこの問題。
この問題はコンピューターには出来ない。キーワードだけを拾うと「アメリカ合衆国 28 ドミニカ共和国 35」の図を選びたくなる。
ある番組でこの問題を東大の新入生に解いてもらったところ、正答率は52%。こういう問題もきちんと論理立てて読解して欲しい。